0の0乗
はてなブックマークで、0の0乗についての記事がホットエントリーになっていた。
0の0乗の正解がネット検索しても見つからないので作成した。 | 子育ての達人 | 妊娠・出産・育児・子育ての毎日を楽しく
「いろんな言い分は多々見受けられましたが、正しい解答に言及しているサイト(ページ)は見つからなかった」というが、この記事自体に問題があると感じた。しかし、色々考えたけれども、あまりうまくまとめることができなかった。とりあえず、考えたことを以下にメモとして残しておく。
この記事では、一方で「なぜ2の0乗は1になる」と問うておきながら、マイナス乗については、「定義は定義としてすんなり受け入れなければいけません」と主張している。これはチグハグだ。
定義というのは、そこからの議論を厳密に行うために必要なものだ。数学で議論の対象になるもの(「数学的対象」という)は、無数に存在している。互いに似通った対象が多数存在するわけだから、数学では議論を始める前に定義を行い、どの言葉がどの対象を指しているかを決めておかなければならない。そうして、決めておいた定義や公理から推論して、様々な定理を導き出す。これが純粋に数学な議論だ。
「定義は定義としてすんなり受け入れなければいけません」という話は要するに「数学は定義が与えられて初めて議論が始められる」ということだ。マイナス乗をと定義するように、ゼロ乗もなどと定義して、数学的な議論を始めることができる。
しかし、件の記事の議論は違う。
累乗の説明が終わったので0乗の説明に行きます。ここまで来ると簡単です。
つまり、2の0乗というのは2/2(2÷2)なので1なのです。
例として2で進めましたが2以外の数でも同じです。従って、0の0乗とは、0/0(0÷0)のことです。
明らかに、これは定義から推論して法則を導き出す数学的な証明ではない。指数法則が成り立つように、と定義したいという、定義の動機の話だ。
「なぜ2の0乗は1になるか」「なぜ0の0乗は未定義になるか」という問いは、2通りに解釈できるということでもある。数学で「なぜか」と言ったら、普通は「なぜか、を証明して示せ」ということを意味している。しかし、の定義がないうちには、「を証明せよ」という純粋に数学的な問いは成り立たない。「なぜか」という文のもう1つ、「なぜ数学者は(数学では)が成り立つような定義を採用するのか」を意味するだろう。これは数学者の動機の問題で、純粋に数学的な問題ではないし、コンセンサスも存在しない。
付録: なぜ私はとなるような定義を採用するのか
「定義の理由」にコンセンサスがあるわけではないけれども、「冪乗」と「指数関数」を使い分けて説明すると、理由を納得しやすいと思う。
掛け算の繰り返しで定義されている冪乗には指数法則が成り立つ。一方で、別の方法で定義されている*1指数関数にも、指数法則が成り立つ。が正の整数であるときには指数関数と冪乗は一致し、となる。だから、数学では多くの場合指数関数を冪乗と同じ記法で表しているし、同一視することもある。考えが変わったので、取り消す。11月23日
この説明は、となる理由を説明できるが、高校数学の範囲での指数関数は、底がの範囲でしか定義されていないから、やの定義には、別の説明が必要になる。
定義の理由の理解がどのようであれ、定義自体が共有されているのであれば、数学的な議論を行う上で問題はない。