「IPAフォントライセンスを巡って」について思うところ 1

IPAフォントライセンスを巡って | 一般社団法人 文字情報技術促進協議会

IPAフォントライセンス1は、Open Source Initiative (OSI) から、The Open Source Definition (OSD) 2に準拠しているという認定を受けているという触れ込みだった。3 だから、ライセンスを理由にMJ明朝体フォントを利用したサービスを差し止めるというのは不可解なことに思える。いったい、これはどういうことなんだろうか。この記事を読んで、次のような疑問が浮かんだ。

  1. IPAmj明朝をWebフォントとして利用することは、IPAフォントライセンス上問題となるのか。
  2. IPAmj明朝をWOFF化するサービスは、IPAフォントライセンス上問題となるのか。
  3. サブセットフォントは包摂基準を変えるのか。

以下では、上記疑問のうち、1と2について考えてみたい。3については、別の記事にする。

以下、IPAフォントライセンスの条項を指す場合は、IPAフォントライセンスの表現に従い、列挙された項目を号ではなく項で表現する。また、OSD条文は八田真行(mhatta)による「オープンソースの定義」の日本語訳4に基づく。

1. IPAmj明朝をWebフォントとして利用することは、IPAフォントライセンス上問題となるのか。

IPAmj明朝が、複製その他の利用をされるケースとして、次の3つがある。

  1. 派生プログラムを再配布する
  2. 許諾プログラムをそのままの状態で改変することなく再配布する
  3. デジタル・ドキュメント・ファイルについて複製その他の利用をする

ケース1は2条4項または2条7項に該当して許諾が付与されるケースで、3条1項の制限を満たす必要がある。ケース2は2条6項に該当するケースで、3条2項の制限を満たす必要がある。ケース3は2条2項、3項および5項に該当するケースで、このケースでは3条1項および2項の制限を満たす必要がない。

Webフォントとしての利用がいずれのケースに該当するにしても、それぞれのケースについて必要な制限を満たしていれば、とうぜんWebフォントとして利用可能だ。

3条3項および4項に示されているのは免責条項なので、以下議論しない。

ケース1 派生プログラムを再配布する。

1のケースに該当する場合は条件が多い。

  • 3条1項(1)「派生プログラムを再配布する際には、下記もまた、当該派生プログラムと一緒に再配布され、オンラインで提供され、または、郵送費・媒体及び取扱手数料の合計を超えない実費と引き換えに媒体を郵送する方法により提供されなければなりません。」該当するデータを提供すればよい。
  • 3条1項(2)「派生プログラムの受領者が、派生プログラムを、このライセンスの下で最初にリリースされた許諾プログラム(以下、「オリジナル・プログラム」といいます。)に置き換えることができる方法を再配布するものとします。かかる方法は、オリジナル・ファイルからの差分ファイルの提供、または、派生プログラムをオリジナル・プログラムに置き換える方法を示す指示の提供などが考えられます。」この条項は、具体的に何を指して「置き換える」と言っているのかがよく分からない。アプリケーション上での表示フォントを置き換える、という意味であれば、サブセット化したWebフォントとローカルにインストールしたIPAmjフォントとで、表示を切り替えることができるようにする機構を入れておけば済むと思われる。
  • 3条1項(3)「派生プログラムを、本契約書に定められた条件の下でライセンスしなければなりません。」ライセンスすればよい。
  • 3条1項(4)「派生プログラムのプログラム名、フォント名またはファイル名として、許諾プログラムが用いているのと同一の名称、またはこれを含む名称を使用してはなりません。」該当箇所を適当にリネームすればよい。
  • 3条1項(5)「本項の要件を満たすためにオンラインで提供し、または媒体を郵送する方法で提供されるものは、その提供を希望するいかなる者によっても提供が可能です。」制約に関する条項なのに、文が「可能です」で終わっているのは不可解だし、意味がとれない。「その提供を希望するいかなる者」というのは、提供を行うことを希望する者なのか、それとも提供を受けることを希望するものなのか、それも分からない。3条1項(1)で示されている提供されなければならないものの提供方法はその提供の主体を問わず、他者から提供を受けることができるようにすればそれで条件を満たしているという但し書きなのだろうか。

3条1項(2), 3条1項(5)の意味に不可解な部分はあるが、満たすことは可能な条件だと思われる。

ケース2 許諾プログラムをそのままの状態で改変することなく再配布する

  • 3条2項(1)「許諾プログラムの名称を変更してはなりません。」
  • 3条2項(2)「許諾プログラムに加工その他の改変を加えてはなりません。」
  • 3条2項(3)「本契約の写しを許諾プログラムに添付しなければなりません。」

「本契約の写しを許諾プログラムに添付」の部分の解釈が微妙だ。これがZIPアーカイブ化であれば、同一アーカイブ内にライセンス本文が含まれていれば、これは確実に添付したと言えるだろう。では、OpenTypeフォントファイルをオリジナルの形式でWebサーバー上にアップロードしてある場合はどうだろうか? フォントファイルをWebフォントとして参照するページ自体に許諾プログラムが記載されていれば、それは添付と言えるだろうか? あるいはライセンス条文へのリンクが記載されている場合はどうか? ここで、アーカイブに含まれているのは添付だが、ライセンス条文へのリンクは添付ではないということになると、それは直感的には不条理な制限だし、OSD 10条「ライセンスは技術中立的でなければならない」に抵触するかもしれない。ここの部分が明確であれば、OpenTypeフォントをサブセット化せずそのままウェブフォントとして使うことは、容量の問題は存在するにせよ、技術的に可能なはずだ。

ケース3 デジタル・ドキュメント・ファイルについて複製その他の利用をする

このケースに該当する場合は、上記3条1項および2項の制限に従う必要がない。

WebアプリケーションにおけるWebフォントとしての利用は、どのケースに該当するのか

ライセンスでは、デジタル・コンテンツおよびデジタル・ドキュメント・ファイルは以下のような定義になっている。

  • 1条4項「「デジタル・コンテンツ」とは、デジタル・データ形式によってエンド・ユーザに提供される制作物のことをいい、動画・静止画等の映像コンテンツおよびテレビ番組等の放送コンテンツ、ならびに文字テキスト、画像、図形等を含んで構成された制作物を含みます。」
  • 1条5項「「デジタル・ドキュメント・ファイル」とは、PDFファイルその他、各種ソフトウェア・プログラムによって製作されたデジタル・コンテンツであって、その中にフォントを表示するために許諾プログラムの全部または一部が埋め込まれた(エンベッドされた)ものをいいます。フォントが「エンベッドされた」とは、当該フォントが埋め込まれた特定の「デジタル・ドキュメント・ファイル」においてのみ表示されるために使用されている状態を指し、その特定の「デジタル・ドキュメント・ファイル」以外でフォントを表示するために使用できるデジタル・フォント・プログラムに含まれている場合と区別されます。」

Webアプリケーションは、定義上は「デジタル・データ形式によってエンド・ユーザに提供される制作物」に該当するから「デジタル・コンテンツ」であるし、それにフォントを埋め込めば、それは「デジタル・ドキュメント・ファイル」となると思われる。しかし、これは本来ライセンスが意図した定義ではないかもしれない。すなわち、Webアプリケーション自体はとうぜん制作物であるにしろ、それによって表示されるテキストはWebアプリケーションに由来するとは限らず、たとえばチャットアプリとして、送信されたテキストをIPAmjフォントで表示するというようなケースでは、アプリに含まれないテキストを表示するためにフォントが使われることになる。そのようなアプリケーションは、制作物でありながらメディアなのだから、IPAフォントライセンス制定者の意図としてはケース3から除外したいもののように推察されるが、それにしては、ライセンス上の定義は不適切だと思われる。

「デジタル・コンテンツ」および「デジタル・ドキュメント・ファイル」の定義がそもそも不適切なので、フォントが埋め込まれたWebアプリケーションはおよそケース3に該当してしまうという解釈はできる。しかし、そう解釈しないにしても、本来想定されていたであろう外部のテキストの表示にフォントを用いない、真に「デジタル・ドキュメント・ファイル」と呼べるWebアプリケーションも存在する。そもそも、HTMLというのはアプリケーション以前に、文書を表現するためのフォーマットであるはずなのだから、Webアプリケーションのうち、真に「デジタル・ドキュメント・ファイル」であるものは存在する。

WebフォントがHTMLファイルの外部に保存されていて、そのファイルにリンクされている場合は、条文中の「エンベッド」に該当しない可能性も残ってはいる。しかし、Webフォントをdata URLの形でHTMLファイル中に埋め込むことも可能であり、この場合は「エンベッド」に該当することに争う余地はないだろう。

(そもそも細かいことを言えば、リンクの場合はエンベッドに該当しないという解釈を取ることは、どうなのだろう? HTMLファイルにdata URLをを埋め込むことと、単なるリンクにすることの間で、フォント抽出の難しさはほとんど差がなく、別の文書での再利用も簡単だ。ここで、data URLの場合は埋め込みで、リンクの場合は埋め込みではないということにする合理性はどれほど存在するだろうか?)

2. IPAmj明朝をWOFF化するサービスは、IPAフォントライセンス上問題となるのか。

IPAmj明朝のWOFF化は、ケース1に該当するのだから、3条1項の条件を満たせば、IPAmj明朝をWOFF化するサービスは可能だと思われる。そのサービスから提供されたWOFFフォントをWeb文書に埋め込んで利用する場合、これはケース3に該当し、3条1項および2項の条件によらず、利用できる。このとき、単にWOFFファイルへのリンクを埋め込む形では文書への埋め込みに該当しないという解釈がありうるが、バックエンドサーバーでWOFFサブセット化サーバーからフォントを取得して文書に埋め込むという処理を行うことでより確実にケース3に該当する形でWebフォントを利用できる。そもそも、今のブラウザーの仕組みではセキュリティ上の問題で、異なるサイト5 6間ではもはやWebフォントのキャッシュは共有されない7 8のだから、リンクを使ったWebフォント提供サービスというのは、もはやキャッシュ効率の点では価値がないので、その文書・そのページで使われるフォントを直接HTMLに埋め込む(インライン化する)という選択を取ることもあるだろうと思う。