「IPAフォントライセンスを巡って」について思うところ 2

前から時間が空いてしまったけど、サブセットフォントは包摂基準を変えるのか、というところについて書く。

IPAフォントライセンスを巡って | 一般社団法人 文字情報技術促進協議会

フォントがどうだろうと包摂基準には関係しない

包摂基準というのは、文字図形を、符号化にあたって同定するための基準だ。要するに、文字図形→文字コードという変換のルールだ。一方、フォントは、文字を描画するためのプログラムで、文字コード→文字図形という、逆向きの変換を行う。

フォントは描画に関わるプログラムであって、符号化に関わるルールではない。そのようなルールは規格書に書かれているものであって、フォントの中に包摂基準は含まれていない。それゆえに、フォントをサブセット化するなどの改変を行ったからといって、包摂基準が変わるということもありえない。

フォントのサブセット化で包摂基準が変わると思うとしたら、それは文字コードの規格書とフォントをちゃんと区別していないということではないだろうか。

IPAmj明朝フォントと文字情報基盤は違う

フォントは、それ自体が包摂基準ではない。包摂基準のような概念は、フォント実装の外部に存在する。そのような概念を共有するのは、規格書の役割だ。たとえ規格書のコードチャートが特定のフォントで印刷されているとしても、フォントと規格は違うものだ。

実際のところ、文字情報基盤の規格書というものが存在して、正式に公開されているというわけではない。公開されているのは、OpenXML形式のMJ文字一覧表と、IPAmj明朝フォントだ。MJを利用するためには別途符号化のルールを規定した規格書が要るはずだが、簡単な利用ガイド程度の資料しか用意されていない。現状の文字情報基盤がこのような形態だから、文字情報基盤とIPAmj明朝フォントの違いが、よく分からなくなっている。

文字情報基盤を規格として捉えた上で、フォントの規格適合性を保証・認証できるようにしたい、というモチベーションがあるのはわかる。ただ、それを、フォントのライセンスであるIPAフォントライセンスでやろうとするのは、筋が悪すぎる。そもそも、IPAフォントライセンスは文字情報基盤整備事業の前にできたという時点で、派生フォントが規格に適合するかどうかということはIPAフォントライセンスと何も関係のない話だ。

包摂基準などを規定した仕様書が正式に策定されていないというのは、文字情報基盤自体の問題であるはずだ。たとえIPAmj明朝フォントの利用をライセンスで制限しようと、文字情報基盤の問題が解決するわけではない。それよりも、文字情報基盤の、文字コード規格としての不完全さを解消するべきだろう。